大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和42年(借チ)1028号 決定

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔決定理由〕三、ところで相手方は、右賃貸借に地上建物の増改築を制限する旨の約定があつたと主張し、本件改築は契約上許されないとしている。

ただこの点に関する相手方本人の供述も直ちに採用できるかどうか疑問がないわけでなく、本件で調べた資料による限り右約定の存否は必ずしも明らかでない。しかし、相手方の本件における態度からみても、申立人が相手方の意向を無視して改築をすれば契約を解除されるなど紛争を惹起すべきことが当然に考えられるのであるから、申立人としてはかような紛争を避けるた相方の承諾に代わる許可の裁判を求める利益を有するというべきであり、申立の当否について判断すべきものと考えられる。

ところで本件の改築は別紙(四)記載のとおりであつて同(三)の二階建の建物が新たに建てられるのであるが、従前の建物の大部分が取りこわされるので建築面積はかえつて減少し、建築法上も格別の問題はなく、また隣地の関係等から見ても許可を不相当とするような格別の事情もないから本件申立はこれを認容すべきである。

四、そこで次に、右許可に伴う付随の処分について検討する。<中略>

(2) 次に財産上の給付についてであるが、鑑定委員会の意見は、当事者の利害調整のため財産上の給付をなさしめるを相当とし、本件土地の更地価格を三、三平方米当り四〇万円、借地権価格はその七〇%二八万円と評価した上、期間を二〇年延長する場合のいわゆる更新料を借地権価格の一〇%とし本件で延長される期間が八年であるところから、その二〇分の八に当る金額(借地面積七八、七四平方米として二六万七〇〇〇円)を支払わしめるべきものとしている。本件で調べた資料によると、借地上現存する建物は、戦後間もなく建てられたもので、材料も良質でなく、かなり古くなつており現在においては朽廃の徴候が見られる訳ではないが、やがてその朽廃による借地権の消滅が問題となるであろうと推認されるのであるが、本件の改築によつて、地上建物は新たになり、申立人は現存建物の朽廃により借地権が消滅するという事態を免れ、また前記期間の延長によつて期間満了(期間満了における更新拒絶の正当事由の有無は予測し難く、期間満了により当然に賃貸借が終了するとはいえないが)の時期が八年間延びるなどの利益を与えることになるというべきである。<中略>

前記鑑定委員会の意見における算定方法はやや画一的との感を免れないが、一面算定の過程が明瞭かつ具体的で、算定基準が客観性をもつということができようし、あるいは、他に適切な方法がない以上、なんらかの客観的な基準を求めるとすれば本件におけるような場合に近似するとみられる更新による期間延長の場合の更新料に算定の基礎を求めるほかないとの考え方もあるであろう。しかし、増改築の許可に伴う財産上の給付額の算定にあたり参酌すべき事情は各事案ごとに同様でなく個別性が顕著であつて必ずしも画一的な基準に従い計数的に給付額を算定し難いと考えられる(本件においても単純に八年間の期間延長による利害の調整のみを考えて足りるものではない)ばかりでなく、右意見におけるようにいわゆる更新料をそのまま算定の基礎とすることには次の点においても疑問を免れない。すなわち、世上いわゆる更新料の支払の行われることについてはそれなりの理由があるものとは考えられるけれども、それはもとより賃貸人において法律上請求しうるものとは考えられず、むしろ、更新にあたりその支払をすべきものとすることは借地法の趣旨にそわないものといわねばならないのであるし、またかような慣行が東京都の市街地域においてかなり広く行われるようになりつつあり、またその額についてもある程度の基準ができつつあるともいわれているけれども、かような慣行についてはいまだこれをそのまま裁判の基礎とする程の規準性を認めることは困難であると考えられ、またその合理性についてもなお検討の余地を残すものと考えられるのである。

それ故、本件において、現に行われている更新料支払の事例を基準とし、延長される期間の割合をもつて算出した金額を採つてそのまま財産上の給付額とするのは相当でない(一つの参考事情として酌むことは別として)と考えざるを得ない。

そして本件のような場合、財産上の給付額を的確に算定しうる基準もしくは算定の方式のようなものを見出すことは困難であるが、本件許可が当事者に及ぼす前述の利害得失及び借地の従前の経過に合わせて前記鑑定委員会の意見を参酌し検討した結果、本件土地の借地権価格を三、三平方米当り二八万円、借地全面積につき約六七〇万円と算定し、そのほぼ三%に当る二〇万円をもつて財産上の給付額と定めるを相当と考え、申立人に対し右の金額の支払を命ずることとする。

(3) 最後に、賃料については鑑定委員会の意見に従い一ケ月三、三平方米当り一五〇円に増額すべきものとする。<以下略>(安岡満彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!